日本とイギリスでOTとして働いてきて、改めて思うことがあります。
作業療法士(Occupational Therapist)って何?
日本でもそうですが、イギリスでもOTって何をする仕事なのか分かりにくいと言われがちです。Physiotherapist(理学療法士)の方がずっと認知度が高く、それに比べて「OTって何?そもそも何するの?」とよく聞かれます。
Physiotherapistは、基本動作(呼吸、立つ、歩くなど)の再獲得を目指す仕事。
一方、OTはそれを日常の活動(料理、入浴、着替えなど)に繋げていく仕事っていうのはよく学生の頃から説明されてた。今もそうなのかな?
「PTは基本動作、OTは応用動作」
でもイギリスで働くうちに「そもそもこの説明ではOTの本質を伝えきれていないかも。そして説明が難しい。。。」と思うようになりました。

「Occupation=作業」って訳し方がそもそも違った?
イギリスで働いて気づいたのは、「Occupation」は「作業」ではなく、「その人の人生の多くを占めるもの」という意味で捉えられていること。
例えば…
🍳 料理が生きがいの人もいれば、まったく興味がなく外食ばかりの人もいる。
🚗 車の運転が人生の一部の人もいれば、家族との時間を最優先にする人もいる。
人によって何が大切かって全然違うんです。
例えば、私が担当したある女性のクライアント。彼女はMS (Multiple Sclerosis:多発性硬化症)で車椅子を使用していました。日常生活のさまざまな動作に困難を抱えていましたが、彼女が一番大切にしていたのは、「母親としての役割」でした。
「子供の寝室に行って子供に寝る前のBedtime Storyを読んだり、お風呂の時間を一緒に楽しんだり、料理を作ってあげたりしたい。」
彼女にとって、それらは「作業」ではなく、「母としての時間を子供と共有する」大切なOccupationでした。
そこで、私たちは「母親としての役割」を中心にしたプログラムを考えました。
- 子供達の寝室のドアを広げて車椅子でもアクセス出来るように、子供たちのベッドサイドで本を読めるように
- キッチンの改造を進め、車椅子でも料理ができるように
- バスルームの動線を見直し、子供とお風呂の時間を共有できるように
彼女の意欲も大きく高まり、住環境も変えていくことで、車椅子の生活でも母親としての役割を果たせるようになりました。
MSは進行性の病気です。彼女が再び歩くことは叶わなかったし、これからも叶う事は難しいと思います。でも彼女の人生において彼女が一番大切にしていることを取り戻すことができました。
このことは、OTの視点で考える「Occupationの再獲得」だったと思います。
「リハビリ」と聞くと、「歩けるようになる」「動作を回復する」といったイメージが強いけれど、OTのゴールはそれだけではない。
その人が「本当に大切にしていること」を取り戻すこと。
その人の人生の多くを「Occupy」している事は何か?それをどうやって取り戻すか?
その人自身というよりも、環境を変える事で取り戻せる事もある。
だからこそ、OTのアプローチは100人いたら100通りあって、そこがこの仕事の面白さだと思っています。
正直、OT以外の仕事に目移りしたこともありました。
でも、今は本当に「天職だった」と思うし、心から「この仕事を選んでよかった」と感じています。
OTは単なるリハビリの仕事ではなく、人の「生きる力」を支える仕事。
これからもこの仕事を通じて、誰かの「大切なこと」を取り戻すお手伝いができたら嬉しいです。
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